脳内報酬系とは

報酬系 = reward system

快情動を引き起こす脳内の神経回路の総称。

アルコールや薬物依存は、その報酬効果に伴う強い動機づけとともに反復摂取するこ とによって形成されていくが、それにはいずれも脳内報酬系が重要な役割を担っている。そして近年、神経画像研究やモデル動物を用いた行動薬理学的研究や分子生物学的研究によって、薬物依存と嗜癖行動に共通する神経生物学的基盤が、徐々に明らかになってきており、アルコールや薬物依存のみならず、病的賭博や過食などの嗜癖行動も脳内報酬系が関わっている可能性が示唆されている。依存性の薬物は、いずれも依存症者に快感をもたらすという共通の特徴をもつ。
脳内報酬系とは、欲求が満たされた時に活性化し、その個体に快の感覚 -すなわち快感- を与える神経系のことである。アルコールや薬物は、脳内報酬系に対して直接的あるいは間接的に作用することで、短絡的にアルコールや薬物によってもたらされる高揚感や恍惚感といった快感をもたらす。これらの快感が条件付け刺激となり、再び同様の快感を得たいという欲求が生じる。そして、さらなる快感を得るために同じ行為を繰り返し、ついには自己制御不可能の状態、すなわち依存症に陥ると考えられる。そしてこの快感を引き出すメカニズムが、脳内報酬系である。
脳内報酬系は、まず側坐核や腹側被蓋野が快情動を司る中枢「脳内報酬系」であることが明らかにされ、その後、中脳の腹側被蓋野から内側前脳束を中心に、扁桃体、側坐核、大脳皮質前頭前野に投射するドーパミン神経系(別名:A-10神経)であることが同定された。
脳内報酬系が活性化するのは、必ずしも欲求が満たされた場合のみならず、報酬を得ることを期待して行動をしている時にも活性化する。例えば、アルコール依存症では空瓶を見ただけで、脳内報酬系が活性化し快の感覚が生じる。薬物摂取による急性の報酬効果は、動機付けに関わる神経回路からドーパミンが放出され、細胞内のシグナル伝達に変化を生じさせることから始まる。
アンフェタミンなどの中枢神経刺激薬やアヘン類、アルコールなど直接作用する神経は異なっているが、最終的には腹側被蓋野-側坐核におけるドーパミン系神経伝達を促進する方向に作用する点で共通している。
依存移行期、薬物の摂取が、単なる気晴らしから依存へと移行していく過程には、神経の機能的な変化が深く関わっている。脳内報酬系の形成に深く関わるのは腹側被蓋野-側坐核のドーパミン系神経伝達であるが、その報酬を求めて現れる薬物探索行動では腹側被蓋野から前頭前野、扁桃体へのドーパミン系の投射が重要な役割を果たすとされる。また、薬物探索行動の誘因となる渇望については、扁桃体から 前頭前皮質や側坐核に投射するグルタミン酸系回路の関与が考えられている。

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